本を出そうと考え始めたとき、多くの方が同じ壁にぶつかります。

「書きたいテーマはある。でも、本当に求められているのかどうかわからない」

あるいは逆に、「市場で求められているジャンルはわかった。でも、どうしても書く気になれない」というジレンマです。

このふたつの間で立ち往生してしまい、出版への一歩が踏み出せない方は少なくありません。この記事では、両者が重なる場所の探し方と、どうしても重ならなかった場合の考え方をお伝えします。

「書きたいこと」だけを優先するとどうなるか

自分が書きたいテーマだけを軸に企画を立てると、著者自身の満足度は高くなります。しかし、読者の視点が抜け落ちた企画書は、編集者には「著者の自己表現」として映ります。

商業出版である以上、読者はお金を払って本を購入します。「読んで役に立った」という価値の提供なしに、企画が通ることはありません。

書きたいことを書く場であれば、ブログや同人誌で十分です。商業出版は、書き手の情熱と読者への価値提供が両立して初めて成立します。

「求められること」だけを追っても長続きしない

反対に、トレンドや売れ筋を調べて「これが売れるから書こう」と決めたテーマはどうでしょう。

書き始めは順調でも、自分の中に必然性のないテーマは、執筆が進むにつれて熱量を維持できなくなります。200ページ以上を書き続けるには、「自分がこれを書かなければならない理由」が必要です。

また、書き手の温度感は不思議と文章に滲み出ます。情報として正確でも、著者の熱が感じられない本は、読者の心に届きにくいのです。編集者はそのことを敏感に察知します。

テーマが決まる「重なり」の見つけ方

書きたいことと求められることは、対立するものではありません。ふたつの円が重なる部分を見つけることが、テーマ決めの本質です。

著者が深く語れること読者が切実に求めていること
長年携わってきたこと書店で同ジャンルの本が売れているか
人から頻繁に質問されることSNSで検索されているキーワードは何か
自分では当たり前に思っているが、他の人が知らないことどんな悩みを解決できるか

この重なりが見えたとき、「自分が書ける」かつ「読者が必要としている」テーマが浮かび上がります。

重なりを探す実践的な3つの手がかり

① 人から「教えて」と頼まれることは何か

他者が自分に求めてくるということは、そこに需要がある証拠です。

② 自分が普通にできることで、他の人が苦労しているものは何か

「こんなこと、誰でもできるだろう」と思っていることの中に、著者としての強みが眠っています。

③ 書きたいテーマで解決できる悩みを持つ人は、どこにいるか

その人たちが今どんな言葉で検索し、どんな本を探しているかを調べてみてください。

それでも重ならない場合はどうするか

ここまでの方法で重なりが見つかれば、テーマは決まりです。

しかし、「自分の仕事の内容が、そもそもニッチすぎる」という場合もあります。ここからは、その場合の考え方をお伝えします。

売れやすいテーマ

売れやすい本のテーマ

例えば「健康」や「お金」といったジャンルは、全人類に共通する悩みであるため、常に市場が大きく売れやすいテーマです。

もしあなたが医師や金融の専門家であれば、本を出すためのハードルは比較的低いと言えるでしょう。

売れにくいテーマ

売れにくい本のテーマ

一方で、あなたの仕事が「法人向けの特殊な精密部品の営業」だったとしたらどうでしょうか。

そのテーマそのものを知りたい読者は極めて限定的です。出版社の視点から見れば、どうしても「企画が通りにくいテーマ」になってしまいます。

では、専門性の高いニッチな仕事をしている人は、商業出版を諦めるしかないのでしょうか?

本のテーマは「本業」でなくてもいい

本のテーマは本業でなくてもいい

多くの人が陥る思い込みに、「本は自分の本業について書くものだ」というものがあります。

確かに、本業であれば経験も豊富で書きやすいと思いますが、商業出版において最も大切なのは市場のニーズ(読者が求めているか)です。

もし本業がニッチすぎて出版が難しいのであれば、著者としての新しいテーマを探せばよいのです。

一つの出版テーマに固執せず自分の可能性を広げていく

今の時代、一つのスキルや肩書きだけで一生を終えるのは難しくなっています。業界の変化は速く、昨日までの「当たり前」が今日には陳腐化してしまいます。これは著者も同じです。

一つのテーマに固執せず、自分の可能性を広げていく柔軟性が求められています。

あなたの中に眠る「第2のコンテンツ」を探す

あなたの中に眠る第2のコンテンツを探す

本業以外に、あなたの中に本になるほどの熱量を持ったテーマはありませんか?

  • 費やしてきた「時間」:20年以上続けている趣味はありませんか?
  • 投資してきた「お金」:100万円以上つぎ込んで研究してきたことはありませんか?
  • 深い「思い入れ」:誰にも負けないほど愛着があり、語り出したら止まらないことは?

自分ではただの趣味だと思っていることが、実は読者から見れば「喉から手が出るほど知りたい専門知識」であることは多々あります。

そこにこそ、著者としての新しい立ち位置が隠されているのです。

出版で「新しい立ち位置」を確保する

出版で新しい立ち位置を確保する

「芸は身を助ける」という言葉がありますが、出版も同じです。

本業とは別のテーマで本を出し、それがベストセラーになれば、そこから新しいビジネスが立ち上がることも珍しくありません。

私自身も、本業(出版プロデューサー)とは直接関係のない、しかし非常に思い入れのあるテーマで『幸せになりたければ ねこと暮らしなさい』という本を出し、それがベストセラーになった経験があります。その一冊は、私の人生に新しい視点と可能性をもたらしてくれました。

「将来に備え、新しい自分の立ち位置を確保する手段として出版を考える」

この視点を持つことで、あなたの出版のチャンスは無限に広がります。今の仕事という枠を超えて、あなたが持つコンテンツを再定義してみませんか?

テーマ決めに時間をかける価値

テーマは、本の骨格です。ここがぶれていると、タイトルも目次も、どこかちぐはぐになります。

逆に、書きたい熱量と読者ニーズが重なるテーマを見つけられると、企画書を書く手が自然と動き出し、出版社との交渉でも自信を持って語れるようになります。

「自分が最も語りたいことが、誰かの切実な問いの答えになっているか」

この問いを持ち続けながらテーマを探すことが、商業出版への最短ルートです。

よくある質問

本業と違うテーマでも出版できますか?

できます。商業出版で最も大切なのは「読者が求めているか」であって、著者の肩書きと一致していることではありません。本業がニッチすぎる場合は、むしろ別のテーマを探すほうが早道です。

趣味はテーマになりますか?

なります。20年続けている、100万円以上つぎ込んでいる、語り出したら止まらない——このいずれかに当てはまるなら、それは趣味ではなく専門知識です。ご自身が当たり前だと思っていることほど、読者には価値があります。

健康やお金以外のテーマは、やはり不利ですか?

市場の大きさという意味では有利不利があります。ただし、大きな市場は競合も多いのが実情です。狭くても切実な悩みがあるテーマなら、十分に勝負できます。目安として、同じ悩みを持つ人が100万人規模でいるかを考えてみてください。

テーマがどうしても決まらないときは?

「人から教えてと頼まれること」から考えてみてください。他者が求めてくるということは、そこに需要がある証拠です。自分の内側から探すより、他者からの依頼を思い出すほうが、答えが見つかりやすいことがあります。

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テーマ選びは、一人で決めなくていい

ここまで読んでも、「自分の場合は何が重なるのか分からない」と感じた方も多いと思います。

それは当然です。「自分では当たり前に思っているが、他の人が知らないこと」——これは定義上、自分では気づけないものだからです。

お話をうかがっていると、ご本人が何気なく口にしたことが、そのまま企画の核になることがよくあります。テーマが決まっていない段階でのご相談を、むしろ歓迎しています。