出版企画書とは、出版社に「この本に約300万円を投資する価値がある」と判断してもらうための提案書です。A4用紙で3〜4枚。この数枚で、出版できるかどうかが決まります。
「本を出したい」と思ったとき、多くの人がいきなり原稿を書き始めようとします。しかし、商業出版においてそれは遠回りです。最初に取り組むべき、そして最も情熱を注ぐべきは、この出版企画書の作成です。
編集者は日々、膨大な数の企画書に目を通しています。一通にかける時間は、わずか数十秒。その短い時間で「これは売れる」と思わせるには、戦略的な工夫が要ります。
この記事では、出版企画書の7項目すべての書き方をお伝えします。記事の後半では、そのまま使えるテンプレートも無料で配布しています。
出版企画書とは?なぜ原稿より先に書くのか
商業出版では、出版社が制作費・印刷費・広告費のすべてを負担します。その額は1冊あたり約300万円。著者の費用負担はありません。
裏を返せば、出版社は300万円を投資する判断をしなければならないということです。その判断材料が出版企画書。企業でいえば事業計画書にあたるものだとお考えください。
原稿を先に書いてしまうと、企画が通らなかったときに何百時間も無駄になります。そして企画会議を通る過程で、テーマも構成も大きく変わることが珍しくありません。だからこそ、まず企画書。原稿はそのあとです。
出版企画書の7つの項目【全体像】
ビジネス書の企画として、編集者が検討しやすい標準的な構成は次の7項目です。
| 項目 | 編集者がここで見ていること |
|---|---|
| ① 仮タイトル・サブタイトル | 誰の、どんな悩みを解決する本か |
| ② 企画概要 | なぜ今、この本が必要なのか |
| ③ 想定読者 | 買う人が十分な数いるか |
| ④ 著者プロフィール | なぜ他の誰でもなく、あなたが書くのか |
| ⑤ 類書との差別化 | すでにある本と何が違うのか |
| ⑥ 販売協力案 | 著者自身がどれだけ売る力を持っているか |
| ⑦ 目次案 | その約束を本当に果たせる構成か |
この7つは、突き詰めれば「読者ニーズ」「著者の強み」「類書との差別化」という3つの軸を、角度を変えて確認しているにすぎません。編集者はこの3点を見ています。
7項目のうち、企画の成否を決めるのは「タイトル」「目次」「プロフィール」の3つです。まずこの3つから解説します。
書き方を知る前に|企画書は「自己アピール」の場ではない

7項目の書き方に入る前に、ひとつだけお伝えしておきたいことがあります。
私のもとには、毎月数多くの出版企画書が送られてきます。その中には、構成が整っており、練られた文章で「書き方をよく勉強されているな」と感心するものもあります。
しかし、残念ながらその多くは、「自分のノウハウがいかに素晴らしいかばかりを語っている」のです。せっかく学んだ書き方という武器を、自分をアピールすることに使ってしまっている。これでは企画は通りません。
本は「紙とインクを通じたコミュニケーション」

あなたの身の回りに、こういう人がいたらどうでしょうか。
- 相手の話はあまり聞かない
- 自分の都合ばかり考えている
- 自分の自慢話や言いたいことばかりを延々と話す
こうした人の話を、わざわざお金を払い、数時間もの貴重な時間を費やしてまで聞きたいと思うでしょうか。
答えは「ノー」ですよね。本とは、紙とインクを通じた読者とのコミュニケーションです。しかも読者は、お金と時間の両方を払って読んでくれます。自分の話ばかりする企画が通らないのは、当然のことなのです。
書式を埋める前に、3つを考え抜く

本当に大切なのは、企画書をどう埋めるかというテクニックではありません。その前段階にある「読者への向き合い方」こそが本質です。
- 誰に向けて書くのか
- その人たちは今、どんな深い悩みを抱えているのか
- その悩みを持っている人は、世の中にどれくらいいるのか
この3つを考え抜いてから書式に向かうかどうかで、出来上がるものはまったく変わります。
「思いやり」は編集者にも伝わる

読者への関心が深く、配慮された内容で、その背後に思いやりがある企画は、不思議と読んでいる編集者にも熱が伝わります。
すると、「この企画をもっと良くしたい」「ぜひこの人の出版を実現させたい」という、周囲の応援する気持ちを引き寄せるのです。その結果、当初の案よりもさらに磨かれたものになり、出版決定へと至る——そういうケースを何度も見てきました。
この前提を持ったうえで、ここから7項目の具体的な書き方を見ていきましょう。
タイトルの作り方|企画の8割は「1行」で決まる
読者が書店で本を手に取るかどうかは、タイトルを1秒見て決めます。これと同様に、出版企画書の成否もタイトルにかかっています。
「内容の説明」ではなく「読者のメリット」を
ありがちな失敗は、「○○の進め方」といった教科書のような説明タイトルにしてしまうことです。
編集者の目を引くには、「この本を読むと、読者にどんな得があるのか」を一瞬でイメージさせる必要があります。
| ありがちな例 | 改善後 |
|---|---|
| 売上が上がる営業術 | 口下手でも、3回会わずに契約が取れる営業術 |
| 部下の育て方 | 叱らずに、部下が自分から動き出す伝え方 |
| 健康的な食事の進め方 | 週1回の作り置きで、5kg落ちる食べ方 |
違いは「具体性」と「約束」です。誰に向けたものか、その人がどうなれるのかが、1行で見えるようにします。
1行で要約できるまで削る
企画の本質が1行に凝縮されていないと、メッセージはぼやけます。「要するに、誰がどうなれる本か?」を突き詰めてください。
1行に収まりきらない要素は、サブタイトルで補完します。メインタイトルで興味を引き、サブタイトルで具体性を足す。この役割分担が基本です。
目次の作り方|論理と再現性を証明する
タイトルで「期待」をいだかせた後、その期待を「確信」に変えるのが目次の役割です。
企画を練っていると、あれもこれもと盛り込みたくなりますが、出版企画は「引き算」が鉄則です。「誰の、どんな悩みを、あなただけのどんな方法で解決するのか?」をシンプルに伝えましょう。
見出しだけで「結論」がわかるように
目次は単なる章立てではありません。「見出しを流し読みするだけで、著者の主張が理解でき、悩みへの解決策が見える」構成が理想的です。
- 疑問形は避ける: 企画段階では「なぜ○○なのか?」ではなく「○○だから上手くいく」と、結論を言い切る見出しにします。
- 再現性の高いステップを見せる: 読者が「これなら自分にもできそう」と感じるロードマップを提示しましょう。
「体系的な順番」ではなく「知りたい順番」に
専門家ほど、自分の頭の中にある体系の順に並べたくなります。基礎から応用へ、原理から実践へ。しかし読者は、その順番では読んでくれません。
並べるべきは読者の感情が動く順番です。いちばん知りたいことを先に、前提の説明は後に。この一手で、目次の説得力は大きく変わります。
プロフィールの書き方|「なぜ、あなたなのか?」
編集者が最後にチェックするのは、「この企画を書き上げる力がこの人にあるのか?」という点です。単なる職務経歴書を並べるだけでは、著者としての魅力は伝わりません。
実績を数字で証明する
「長年の経験」ではなく「15年間で3,000人の悩みを解決」のように、客観的な数字を必ず入れましょう。数字は、読み手が検証できる唯一の材料です。
「ギャップ」を見せる
完璧な成功者の話よりも、「かつてはどん底だったが、この方法で立ち直った」というV字回復の物語のほうが、読者の共感と説得力を生みます。
読者は、自分と同じ場所にいた人の話を聞きたいのです。過去の失敗を隠さないでください。
この本を書く資格に特化する
その企画に関係のない経歴は、思い切って削ります。あれもこれも書くと、かえって「何の専門家か分からない人」になってしまいます。
テーマにおける第一人者であることだけを、強調してください。
残り4項目の書き方
企画概要|なぜ「今」なのかを書く
企画概要で答えるべきは、「この本が、今の世の中に必要な理由」です。
編集者は「良い内容か」だけでなく「今このタイミングで出す意味があるか」を見ています。社会の変化、価値観の変化、新しい制度、技術の進展。何かしら「今だからこそ」と言える理由があると、企画は一気に通りやすくなります。
200〜400字程度で、簡潔にまとめてください。
想定読者|具体的に、しかし狭すぎず
「ビジネスパーソン全般」では、誰にも届きません。「30代、中間管理職、部下の離職に悩む人」のように、顔が浮かぶまで具体化します。
ただし、絞りすぎにも注意が必要です。編集者は「その人が何人いるか」も同時に考えています。目安として、100万人規模の読者がいるテーマかどうかを確認してください。「具体的に描写しつつ、市場としては十分な大きさがある」——この両立が理想です。
迷ったら、具体的に描いたうえで「同じ悩みを持つ人は全国に○万人います」と補足するとよいでしょう。
類書との差別化|必ず実在の本を挙げる
ここは省略されがちですが、編集者が最も重視する項目のひとつです。
「類書はありません」と書くのは、最も避けたい書き方です。売れている類書があるということは、市場が存在する証明でもあります。むしろヒットしている本を実名で挙げ、それに対して自分の企画は何が違うのかを明記してください。
差別化の切り口は、たとえばこう考えます。
- 読者層をずらす(経営者向けの内容を、現場のリーダー向けに)
- 切り口を変える(理論中心の分野に、実践手順で入る)
- より親切にする(既存の本が難しすぎるなら、徹底的にわかりやすく)
実際に書店に行き、同じ棚の本を10冊手に取ってみてください。差別化のヒントは、机の上ではなく棚の前にあります。
販売協力案|「売る力」を示す
出版社は投資家です。投資家が知りたいのは「回収できるか」。ここで、著者自身がどれだけ販売に貢献できるかを示します。
- メルマガの読者数、SNSのフォロワー数
- 年間の講演・セミナー回数と、のべ参加人数
- 所属する団体・協会、法人顧客への案内ルート
- 紹介を依頼できる人脈
数が少なくても、正直に書いて構いません。大切なのは規模より、具体的な行動計画があることです。「発売月に○○で△部の献本を予定」のように、動きが見える形で書きましょう。
出版企画書の分量と体裁
よくいただく質問なので、目安をまとめます。
| 分量 | A4用紙で3〜4枚程度 |
|---|---|
| 形式 | Word または PDF |
| 装飾 | 不要。凝ったデザインより読みやすさを優先 |
| 原稿 | 不要(求められたら提出) |
たった3〜4枚の紙で、約300万円の出資を依頼することになります。だからこそ、1行1行に意味を持たせてください。
逆に、20枚も30枚も書く必要はありません。数十秒しか読まれない前提を思い出しましょう。長さではなく、密度です。
出版企画書テンプレート
ここまでの7項目をそのまま埋められるテンプレートを、無料で配布しています。
「出版企画書テンプレート」を開き、ファイル→ダウンロードを選択してください。(もしくは、ファイル→コピーを作成)
ビジネス書の企画として、編集者が検討しやすい標準的な構成案をまとめました。テンプレートの中身は、この記事で解説した7項目です。上から順に埋めていけば、企画書の形になります。
テンプレートの構成
- 仮タイトル・サブタイトル:一目で「誰の、どんな悩みを解決するか」が分かるもの
- 企画概要:この本が今、世の中に必要な理由は何か(時代性・新奇性)
- 想定読者:「30代、中間管理職、部下の離職に悩む人」のように具体的に
- 著者プロフィール:実績を数字で示す。過去の逆境や失敗も開示し、共感を生む
- 類書との差別化ポイント:既存のヒット作を挙げ、それらにはない独自の価値を明記する
- 販売協力案:自身のメルマガ、SNS、講演先など、販促の具体的なリソース
- 目次案:読者の感情の動きに合わせた構成にする(体系的な順番ではなく、知りたい順番)
書き上げた企画書を、無料で診断します
テンプレートを埋めてみると、多くの方が同じところで手が止まります。「類書との差別化が書けない」「タイトルがしっくりこない」——このあたりです。
弊社では、書き上げた企画書を無料で拝見し、商業出版の可能性を診断しています。オンラインでの個別相談という形で、その場で改善の方向性もお伝えします。
まだ途中でも、テーマが決まっていない段階でも構いません。初回は無料です。
よくある質問
出版企画書は何枚くらい書けばいいですか?
A4用紙で3〜4枚が目安です。編集者が1通にかける時間は数十秒なので、長さより密度を優先してください。原稿は企画段階では不要です。
原稿を先に書いてはいけないのですか?
おすすめしません。企画が通らなければ原稿は無駄になりますし、企画会議を通る過程でテーマや構成が変わることも多いためです。まず企画書から始めてください。
類書が見つからない場合はどうすればいいですか?
「類書がない」は、編集者にとって「市場がない」と同じ意味に受け取られることがあります。テーマが近い本、読者層が重なる本を探して挙げてください。書店の同じ棚を見るのが最も確実です。
SNSのフォロワーが少なくても企画は通りますか?
通ります。販売協力案は7項目のうちの1つにすぎません。編集者が見ているのは、読者ニーズ・著者の強み・類書との差別化の3点です。数より、具体的な行動計画があるかどうかです。
書いた企画書は、どうやって出版社に送るのですか?
出版社の問い合わせ窓口へ送る方法もありますが、著者が直接持ち込んだ場合の採用率は一説に1000分の1とも言われます。企画の内容に合った編集者へ、適切なタイミングで届けることが採用率を大きく左右します。
次のステップ:作成した企画書のチェック
出版企画書は、カッコつけて書く必要はありません。むしろ、「バカバカしいほど親切に、徹底的に読者の味方になって書く」こと。これが結果的に、編集者にとっても魅力的な企画書になります。
次のページでは、「企画書を書いたら、まずチェックしたい3つのこと」というテーマでお話ししていきますので、必ず確認してみてください。
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